Module 01 - Part 1

AIの歴史と仕組み

魔法のタネ明かし。ブラックボックスの中身を覗いてみよう。

AI(人工知能)という言葉を聞かない日はありません。しかし、その正体を「正確に」説明できる人はどれだけいるでしょうか?

多くの人は、AIを「何でもできる魔法の箱」だと思っています。あるいは「いつか人間を支配する怖いロボット」だと。
しかし、魔法のように見える技術には、必ず物理的な「タネ」と「仕掛け」があります。

このモジュールでは、まずAIがどのような歴史を辿って進化してきたのかを紐解き、次にその中身である「ニューラルネットワーク」の仕組みを、数式を使わずに直感的に解剖します。
「AIは魔法ではない」と腹落ちした瞬間、あなたのAIに対する恐怖心は消え、代わりに「どう使いこなしてやろうか」という好奇心が芽生えるはずです。

Chapter 1: 知性への長い旅路

AIの歴史は、決して順風満帆ではありませんでした。熱狂的なブームと、期待外れによる予算凍結……いわゆる絶望的な「冬の時代」を何度も繰り返してきたのです。

1956

ダートマス会議(AIの誕生)

すべての始まり。「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が初めて使われた伝説のワークショップ。当時の科学者たちは「知能のシミュレーションはひと夏で解決できる」と楽観視していました。これが第1次AIブームの始まりです。

1969 - 1980s

最初の「冬の時代」

現実は甘くありませんでした。当時のAI(パーセプトロン)は「単純な迷路しか解けない」ことが数学的に証明され、世界は失望しました。研究資金は途絶え、AI研究者は日陰の存在となりました。

2012

ディープラーニングの衝撃

画像認識コンテスト「ILSVRC」で、ジェフリー・ヒントン率いるチームが圧勝。人間の脳神経回路を模した「ディープラーニング(深層学習)」の実用性が証明され、現在の爆発的な進化の火蓋が切られました。

2017

Transformerの登場

Googleが論文『Attention Is All You Need』を発表。現在のChatGPTやGeminiの基礎となるアーキテクチャ「Transformer」が誕生。これによりAIは、単語だけでなく「文脈」を理解する力を手に入れました。

📽️ The Turning Point: AlphaGoの衝撃 (2016)

2016年、Google DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」が、世界最強の棋士イ・セドルを4勝1敗で下しました。
実は、囲碁は将棋やチェスに比べて盤面が広く、指し手のパターンは宇宙の原子数よりも多いと言われています。そのため、「AIが人間に勝つにはあと10年はかかる」と言われていた定説が、一夜にして覆された瞬間でした。

「人間には理解できない手だった」

第2局の第37手。AlphaGoが打った「黒の一手」は、解説者が絶句し、イ・セドルが席を立つほどの常識外れな手でした。しかし、それこそがAIが人間の模倣(過去の棋譜の学習)を超え、独自の「創造性」ごときものを見せた瞬間だったのです。

Chapter 2: "魔法"の正体

では、今のAI(特にChatGPTのような大規模言語モデル=LLM)は、頭の中で何を考えているのでしょうか?
結論から言えば、AIは「意味」を理解していません。 ただひたすらに「確率」を計算しているだけです。

💡 Metaphor: 超高性能な「予測変換」

スマホで「お疲れ」と打つと、「様です」と出てきますよね?
本質的には、今のAIもこれと同じことを超高度に行っています。

  • 【従来の予測変換】
    直前の単語しか見ない。
    例:「昔々」→「あるところに」
  • 【現在のAI (LLM)】
    インターネット上のほぼ全てのテキストを読み込み、「文脈」「ニュアンス」「キャラ設定」まで考慮して、次に来る確率が最も高い言葉(トークン)を予測する。
    例:「昔々、あるサイバーパンクな世界に」→「ネオン輝くおじいさんが」

彼らは言葉の意味(Qualia)を知っているのではなく、「この言葉の後には、確率的にこの言葉が続くことが多い」という統計データを、極限まで積み上げた存在なのです。

ニューラルネットワークとは?

この「確率計算」を行っているのが、人間の脳の神経回路(ニューロン)を数式で模倣した「ニューラルネットワーク」です。

入力されたデータ(画像やテキスト)は、無数の層(Layer)を通過する過程で、少しずつ特徴を抽出されます。 最初は「線」や「点」、次は「目」や「耳」、最後は「猫」といった具合です。 現在のLLMは、このパラメータ(脳のシナプスの結合強度のようなもの)が数千億〜数兆個という天文学的な規模になっています。

Q. 現在の生成AI(LLM)の仕組みとして、
最も適切な説明はどれ?