魔法のタネ明かし。ブラックボックスの中身を覗いてみよう。
AI(人工知能)という言葉を聞かない日はありません。しかし、その正体を「正確に」説明できる人はどれだけいるでしょうか?
多くの人は、AIを「何でもできる魔法の箱」だと思っています。あるいは「いつか人間を支配する怖いロボット」だと。
しかし、魔法のように見える技術には、必ず物理的な「タネ」と「仕掛け」があります。
このモジュールでは、まずAIがどのような歴史を辿って進化してきたのかを紐解き、次にその中身である「ニューラルネットワーク」の仕組みを、数式を使わずに直感的に解剖します。
「AIは魔法ではない」と腹落ちした瞬間、あなたのAIに対する恐怖心は消え、代わりに「どう使いこなしてやろうか」という好奇心が芽生えるはずです。
AIの歴史は、決して順風満帆ではありませんでした。熱狂的なブームと、期待外れによる予算凍結……いわゆる絶望的な「冬の時代」を何度も繰り返してきたのです。
すべての始まり。「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が初めて使われた伝説のワークショップ。当時の科学者たちは「知能のシミュレーションはひと夏で解決できる」と楽観視していました。これが第1次AIブームの始まりです。
現実は甘くありませんでした。当時のAI(パーセプトロン)は「単純な迷路しか解けない」ことが数学的に証明され、世界は失望しました。研究資金は途絶え、AI研究者は日陰の存在となりました。
画像認識コンテスト「ILSVRC」で、ジェフリー・ヒントン率いるチームが圧勝。人間の脳神経回路を模した「ディープラーニング(深層学習)」の実用性が証明され、現在の爆発的な進化の火蓋が切られました。
Googleが論文『Attention Is All You Need』を発表。現在のChatGPTやGeminiの基礎となるアーキテクチャ「Transformer」が誕生。これによりAIは、単語だけでなく「文脈」を理解する力を手に入れました。
2016年、Google DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」が、世界最強の棋士イ・セドルを4勝1敗で下しました。
実は、囲碁は将棋やチェスに比べて盤面が広く、指し手のパターンは宇宙の原子数よりも多いと言われています。そのため、「AIが人間に勝つにはあと10年はかかる」と言われていた定説が、一夜にして覆された瞬間でした。
「人間には理解できない手だった」
第2局の第37手。AlphaGoが打った「黒の一手」は、解説者が絶句し、イ・セドルが席を立つほどの常識外れな手でした。しかし、それこそがAIが人間の模倣(過去の棋譜の学習)を超え、独自の「創造性」ごときものを見せた瞬間だったのです。
では、今のAI(特にChatGPTのような大規模言語モデル=LLM)は、頭の中で何を考えているのでしょうか?
結論から言えば、AIは「意味」を理解していません。 ただひたすらに「確率」を計算しているだけです。
この「確率計算」を行っているのが、人間の脳の神経回路(ニューロン)を数式で模倣した「ニューラルネットワーク」です。
入力されたデータ(画像やテキスト)は、無数の層(Layer)を通過する過程で、少しずつ特徴を抽出されます。 最初は「線」や「点」、次は「目」や「耳」、最後は「猫」といった具合です。 現在のLLMは、このパラメータ(脳のシナプスの結合強度のようなもの)が数千億〜数兆個という天文学的な規模になっています。